2009年5月『大日本人』『ゲッタマン』批評

松本人志の『ゲッタマン』(VISUALBUM、2003年)をここ最近で100回以上見た。何度見ても面白い。というよりも、見れば見るほど面白い。『ゲッタマン』は登場人物全員がリアルで、自分も似た経験があることを発見して、笑いが生まれる、という「あるあるネタ」系の笑いである。全く的外れな提案をするお偉いさん、お偉いさんにいいなりで、若手俳優を物のように扱い、理不尽に怒ったり、殴ったりする現場監督、理不尽に怒られているのを見て見ぬふりをするまわりの人々、すべてがリアル。


個人的な経験を話させていただくと、私は教師や先輩や親に理不尽に怒られた経験が多いので、『ゲッタマン』は非常によく理解できる。正しい意見を言っていて、何も悪いことをしていないのに理不尽に上司から怒られる若手俳優が自分に重なる。


また最近『大日本人』も10回以上見た。松本人志作品は何度見ても面白い。『大日本人』に登場する利己的な図太い女性たち―マネージャー、主人公の嫁―が非常にリアルで共感できる。あれと似た女性を私は山ほど見てきた。松本人志作品を見ると、女性の本質、人間の本質がよく分かる。松本人志は『ゲッタマン』『大日本人』の中で人間の本質を見事に描いている。それを見てわれわれは現実と似たような経験、似たような人物を発見し、笑いが生まれる。


松本人志の今後】

松本人志にはくだらないバラエティに出るだけのさんまのようなバラエティタレントになるのではなく、今後も映画作り、作品作りに集中してもらいたい。しかし、映画作りには費用が必要なので、これからも今のように吉本制作のバラエティ番組に出て、吉本に貢献して費用を稼ぎ、バラエティタレントをやりながら映画を作る、作品を作る、という形になるのだろう。


あとお笑い芸人は40歳以降は教養番組の司会をやったり、文化人的ポジションに徐々に移行しないと、年の割に馬鹿っぽく見られるので、落ち目になる、という常識がある。よって、松本人志はバラエティタレントとしては2009年現在のさんまのように凋落していくだろう。だから私はバラエティタレントではなく、映画作り、作品作りを主にする芸術家・クリエーターになってもらいたいのだが、映画・作品作りの費用を稼ぐためにはやはりバラエティタレントを続けざるを得ないのだろう。


■参考作品
松本人志『ゲッタマン』(VISUALBUM、2003年)
松本人志大日本人』(2007年)


■村上哲也が今の気分で選ぶ松本人志作品3選

1位 『ゲッタマン』(VISUALBUM、2003年)
2位 『大日本人』(2007年)
3位 『巨人殺人』(VISUALBUM、2003年)

村上哲也の講演の代表作『生態系論』