R-1ぐらんぷり2009、4000字批評

村上哲也の講演の代表作『生態系論』
本格的な評論はツカサネット新聞に投稿しました。
R-12009、一人だけ「あるあるネタ」を量産した中山功太が優勝


ここでは簡単な短い2000字ほどの批評を書きたいと思います。


まずは、私の採点と、芸人達の使った笑いの手法のまとめから載せます。


R-1ぐらんぷり2009の採点と笑いの手法まとめ

夙川アトム 70点 言葉遊び、物真似
岸学    70点 物真似
バカリズム 95点 比喩
エハラマサヒロ 70点 言葉遊び、物真似
サイクロンZ  80点 同じ動きが二つの見え方に見える=両義性
鳥居みゆき   95点 言葉遊び、反復
鬼頭真也    80点 言葉遊び、共通性の発見、あるあるネタ
COWCOW山田よし 100点 言葉遊び、かぶせ・反復、類似性の発見
あべこうじ 70点 言葉遊び、あるあるネタ、比喩 、かぶせ・反復
中山功太 100点 あるあるネタ


■R-1優勝者の笑いの手法まとめ

2002年 だいたひかる あるあるネタ
2006年 博多華丸   物まね
2007年 なだぎ武   物まね
2008年 なだぎ武   物まね、あるあるネタ、言葉遊び、類似性の発見、反復
2009年 中山功太   あるあるネタ



上の表をみれば明らかなように、
笑いの手法が無限にあるなんて幻想です。
5個ぐらいの笑いの手法をいかに応用するかが大事です。




【笑いの手法「物真似」だけでは物足りない】

毎日「パン」だけの食事だったら3日で飽きるように、
「物真似」だけの芸人は3秒で飽きますね。
「物真似」しながら「あるあるネタ」「比喩・たとえ話」「言葉遊び」
とかを入れるべきだと思います。




バカリズムの「見立て・比喩」はポイズンもやっている】

勉強でも基本問題の解法を応用して、応用問題を解くように、
笑いでも基本の笑いの手法を応用して、応用的な芸を作り出します。


ツカサネット新聞に投稿した評論にも書きましたが、
バカリズムの、都道府県の形をどう持つか、
と言った後、都道府県をボールのように扱い、
都道府県を持つ絵が描かれたフリップを出すネタは、
「比喩」の応用です。


都道府県の形をボール、赤ん坊、ギターに見立てる、
すなわち「比喩」を使っていましたね。


「凄い発想だ!」
とプロ芸人すら絶賛していましたが、
M-12007のポイズンガールバンドのネタとかぶってますね。


ポイズンもM-12007の『島根と鳥取の違い』で
島根と鳥取をボールや耳栓に見立てる、
すなわち「比喩」という手法を使っていました。


都道府県の形を何かに見立てる手法は、
見立て、すなわち「比喩」の応用版です。


これもツカサネット新聞に書きましたが、
或る物を何か別なものに見立てる「比喩」で一番優れているのは、
チュートリアル『バーベキュー』(M-1、2005)『チリンチリン』(M-1、2006)でしょう。


『バーベキュー』ではバーベキューの具を串に刺す順番を芸術作品に見立て、
『チリンチリン』では自転車のベルを大切な女性に見立てる、
すなわち「比喩」という手法の応用版を使っていました。


バカリズムのネタがあらゆる所で絶賛されていますが、
ポイズンガールバンド都道府県の形をボールや耳栓に見立てる「比喩」をやっていました。




中山功太だいたひかるの反復】
バカリズムのR-12009がポイズンのM-12007の反復なように、
中山功太のR-12009はだいたひかるのR-12002の反復です。


中山功太の日常の「あるある」に冷めた批評を入れるネタは、
2002年R-1第一回大会のだいたひかるの反復でしょう。


笑いの手法が無限にあるなんて幻想です。
いかに基本的な手法を応用するかが大事です。


バスケでも基本的なオフェンシュシュート、レイアップをいかに応用するかで、
良い選手なれるかどうか決まります。


同様に笑いでも「あるあるネタ」「比喩・たとえ話」をいかに応用するかで、
良い選手になれるかどうか決まります。


ここで挙げたバカリズムポイズンガールバンドチュートリアル
「比喩」の応用版、
だいたひかる中山功太
あるあるネタ」の応用版をやっていました。



【サイクロンZとバカリズムの見立て・両義性は似ている】


サイクロンZは同じ動きが二つの見え方に見える=両義性という
長井秀和も昔やっていた手法を使っていましたが、
この同じ物が二つの見え方に見える、
という笑いの手法は、バカリズムの「見立て・比喩」と似ているのかもしれません。


バカリズム都道府県の形が、ボール、赤ん坊、ギターの形に見える、とした。
サイクロンZは或る動きが、ダンスに見える、とした。


両義性=ダブルミーニングのネタなので、
強引にまとめれば「両義性」=「比喩・見立て」として、
同じジャンルの笑いの手法にまとめられるのかもしれません。





鳥居みゆきが凄いのは演技力だけ、笑いの手法は「言葉遊び」「反復」しか使ってない】


鳥居みゆきのファミレスでこっくりさんをやるネタですが、
彼女が凄いのは演技力だけです。


凄い引き込まれる演技をしますが、使っている笑いの手法は、
「言葉遊び」「反復」だけで、笑いどころはありません。


ただ演技力・世界観が凄くて引き込まれますね。


彼女の演技力で「あるあるネタ」「比喩・たとえ話」を
もっと多用すれば、R-1優勝できるんでしょうが、
芸人はなぜか「あるあるネタ」を馬鹿にする傾向にあるので、
あるあるネタ」入れたくないんでしょうね。


島田伸介も松本人志の話も実は3割は「あるあるネタ」です。
島田伸介、松本人志の話をすべて分析しましたが、
5割は「比喩・たとえ話」、3割は「あるあるネタ」です。


それにもかかわらず、
あるあるネタ」は芸人の間で馬鹿にされる傾向にあるようですね。


私としては「物真似」だけのネタの方が低レベルだと思いますが、
プロの芸人の間ではなぜか、「あるあるネタ」だけの方が低レベル、
とされているようです。


音楽でも中学生ぐらいに一時期JPOPを否定して、洋楽を絶賛して通ぶりたい時期がありますが、
笑いでも「あるあるネタ」を否定して、通ぶりたい時期があるのでしょう。



まぁ、あまり長く書くと、
誰も読んでくれないので、
R-1ぐらんぷり2009のブログでの批評はこのへんで終りにしたいと思います。


■R-12009、一人だけ「あるあるネタ」を量産した中山功太が優勝
http://www.222.co.jp/netnews/article.aspx?asn=34300

上のリンクのツカサネット新聞に掲載された文章は、
私の原文とかなり変えられて掲載されたので、
下に私の原文を掲載します。




【R-12009、一人だけ「あるあるネタ」を量産した中山功太が優勝】

2009年2月17日に行われたピン芸人お笑い大会・「R-1ぐらんぷり2009」は、
一人だけ「あるあるネタ」を大量に発表した中山功太が優勝した。


あるあるネタ」とは何か?
あるあるネタとは、日常生活で多くの人が経験しているような些細なことを指摘したり、
社会の矛盾点を指摘して、観客の共感を得ることで笑いを取る笑いの手法である。


R-1ぐらんぷりでは2002年に行われた第一回大会でだいたひかるが、
2008年に行われた第六回大会でなだぎ武が「あるあるネタ」を使って優勝している。


バスケでレイアップが決められなければ活躍できないように、
お笑い界では、「あるあるネタ」ができなければ活躍できない。
そのぐらい「あるあるネタ」というのは2000年代を代表するお笑いの手法である。


野球でキャッチボールができなければ試合で使えないように、
お笑い界で「あるあるネタ」ができなければ、その芸人は使い物にならないだろう。


2000年代でトップの芸人といわれる島田紳助松本人志も、
誰も言語化していなかった物事の真理や人間のリアルを指摘する
あるあるネタ」を頻繁に使用する。それは彼らの使う笑いの手法の3割を占めている。


イチローが一塁ベースに腰をずらしながら、
まるで走りながら打つような打法を1990年代に確立し、多くのフォロワーを生んだように、
松本人志は大声で怒りながら「あるあるネタ」を披露するというスタイルを1990年代に確立し、
多くのフォロワーを生んだ。


野球界のパイオニアイチローなら、
お笑い界のパイオニア松本人志である。



【「あるあるネタ」で人はなぜ笑うのか?】

誰もが経験しているが言語化していない世の中のリアル、人間の真理、
物事の本質を指摘すると、観客が無意識に思っていた似たようなことと重なり合い、
笑いが生まれる。


なだぎ武は2008年のR-1ぐらんぷりで、ファミコンの2Pのコントローラに
ついているマイクを使ったボケを披露し優勝した。


ファミコンの2Pについているマイクは何のために使うのか?という疑問は
ファミコンをしたことある世代なら、誰もが思ったことがある疑問である。
よって、ファミコンの2Pのコントローラについているマイクはなんのためについているのか?
という疑問を挙げる手法は、有名な「あるあるネタ」として頻繁に使用される。


なだぎ武ファミコンのマイクを利用した「あるあるネタ」を披露したが、
2009年R-1の中山功太も「あるあるネタ」を披露して爆笑を誘った。


中山功太は友達と旅行に行くと必ず「俺二回温泉入ろう」と言う奴がいる、
という「あるあるネタ」を披露した。そんな奴に対して彼は、「謎の欲望である」と批評を入れる。


また「あれ、なんかプールの匂いしない?」と言う奴がいる、という
あるあるネタ」を披露した。そんな奴に対し彼は、
「じゃあ近くにあるんだろう」と冷めた批評を入れる。


プールの匂いだけではなく、「おならの臭いしない?」と
授業中に言う奴もよくいるものである。
そんな場合は、授業そっちのけで犯人捜しが始まる。


また「俺もそんな時代あったわぁ」と上から目線で言う奴、という「あるあるネタ」を披露した。
偉そうに上から目線で「俺もそんな時代あったわぁ」と言ってくる奴はいるものである。


われわれ人間は、上から目線で言われたセリフというのは、
腹が立つのでよく覚えている。腹が立つ出来事というのは、
誰もがよく覚えているので、「あるあるネタ」に頻繁に使われる。


誰もが腹立つ日常の経験というのは「あるあるネタ」にされやすい。
松本人志は腹が立った日常の「あるある」を大声で怒りながら披露するという笑いの手法を1990年代に確立した。




バカリズムはなぜ面白かったのか?】

バカリズムR-1ぐらんぷり2009で都道府県の形の絵をフリップに描き、
どのように持つか?という疑問を投げかけ、
フリップをめくると手で都道府県の形を持っている絵が描かれている、というネタを披露した。


それがなぜ面白かったかというと、都道府県の形を何か持つ物のように捉えていたからである。
たとえば栃木県をボールに見立てて持ち、投げる絵を披露し、爆笑を取っていた。
また福岡県を赤ん坊に見立てて、赤ん坊を抱き上げるようにしている絵を披露し、
爆笑を取っていた。また愛媛県をギターに見立てて、ギターを持つように愛媛県を持った絵を披露し、
爆笑を取っていたが、これらは実は「比喩」という手法の応用版である。


都道府県の形を何か別のものに見立てて笑いを取るというのは実はR-1ぐらんぷり2009のバカリズムが初めてではない。
M-1グランプリ2007のポイズンガールバンドも『島根と鳥取の違い』というネタで、
島根と鳥取をサッカーボールや耳栓のようなものに見立てて笑いを取る手法を使っていた。


「比喩」の応用版、或る物を何か別の物に見立てて笑いを取る手法を使った
最も優れたお笑い作品はチュートリアル
『バーベキュー』(M-1、2005年)『チリンチリン』(M-1、2006年)であろう。


『バーベキュー』はバーベキューの具を串に刺す順番を芸術作品に見立て、
『チリンチリン』では、自転車のベルを大切な女性に見立てて笑いを取っていた。


今挙げたバカリズムポイズンガールバンドチュートリアルの作品のように、
或る物を何か別な物に見立てる「比喩」の応用版は、高度な笑いの手法であり、
バスケでいえばスリーポイントショットに対応するだろう。


バスケットのスリーポイントショットは誰もが知っているが、
かなり難易度の高いシュートである。
同様にバカリズムポイズンガールバンドチュートリアルが使った「比喩」は、
誰もが知っているだろうが、実はかなり難易度の高い笑いの手法である。


スリーポイントショットが決まったら多くの感動が生まれるように、
美しい「比喩」が決まったら、多くの笑いが生まれる。


われわれはここまで「あるあるネタ」「比喩」という二つの笑いの手法を、
R-1ぐらんぷりM-1グランプリで発表された作品を通じて考察してきた。
あるあるネタ」はバスケットでいったらレイアップ、
「比喩」はバスケットでいったらスリーポイントショットのように重要な技法である。











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